- 一年中日本酒を造る時代に、それでも「BY」が大切な理由 -
栃木の地酒蔵元がこっそり教える!明日から使える簡単マメ知識
皆様こんにちは。
日本名水百選にも選ばれた名水が湧き出る栃木県佐野市で、延宝元年(1673年)創業、350年以上の歴史を誇る栃木県最古の酒蔵・第一酒造の蔵人です。
前回は「酒造年度(BY)はなぜ7月から始まるのか」についてご紹介しました。今回はその続編として、近年よく耳にする「四季醸造」と酒造年度(BY)の関係についてご紹介します。
「一年中日本酒を造れるようになったのに、酒造年度ってまだ必要なの?」
そんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
実は、現在の日本酒業界だからこそ、酒造年度には重要な意味が残されているのです。
四季醸造とは?
昔の日本酒造りは、寒い冬だけに行われる「寒造り」が一般的でした。
気温が低い冬は雑菌が繁殖しにくく、発酵の管理もしやすいため、高品質な日本酒を造るのに最適な季節だったからです。
しかし近年では、冷却設備や空調技術、温度管理システムの進歩によって、季節に関係なく一定の環境を維持できる酒蔵が増えました。
こうした設備を活用し、一年を通して日本酒を醸造することを「四季醸造」と呼びます。
四季醸造を導入している酒蔵では、
・春に新酒を仕込む
・夏にも限定酒を造る
・秋冬も継続して醸造する
といったように、季節を問わず新鮮なお酒を届けることが可能になりました。
四季醸造が増えた理由
四季醸造が普及した背景には、お客様のニーズの変化があります。
以前は「冬に搾った新酒を一年かけて販売する」という流れが一般的でした。
しかし現在では、
- いつでもフレッシュなお酒を楽しみたい
- 季節限定の商品を増やしてほしい
- 海外市場へ安定供給したい
- 人気商品を欠品させたくない
という要望が高まりました。
また、近年は海外への輸出も拡大しており、年間を通じて一定量の生産が求められるケースも増えています。
こうした背景から、設備投資を行い四季醸造へ移行する酒蔵も少しずつ増えてきました。
それでも多くの酒蔵は「冬」が主役
とはいえ、日本全国の酒蔵を見ると、現在でも多くは冬場を中心に酒造りを行っています。
その理由は決して「設備が古いから」ではありません。
寒い季節は自然の低温環境を利用できるため、
- ゆっくりと丁寧な発酵
- 香りの安定
- 酒質のコントロール
- エネルギーコストの削減
といった多くのメリットがあります。
また、杜氏や蔵人が長年培ってきた技術は、冬の酒造りを前提として磨かれてきました。
日本酒造りは、機械だけでは決して完成しません。
気温や湿度、麹の状態、もろみの香りなど、人の五感が大きな役割を担っています。
だからこそ現在でも「寒造り」を大切にしている酒蔵は数多く存在します。
四季醸造の時代でもBYが使われる理由
では、一年中お酒を造る時代に、なぜ酒造年度(BY)は残っているのでしょうか。
理由は、「いつ造られたお酒なのか」を明確に管理するためです。
例えば、
- 令和8BY
- 令和9BY
という表示があれば、そのお酒がどの酒造年度に仕込まれたものなのかがすぐに分かります。
日本酒は、お米や気候、酵母、水、発酵条件などによって毎年少しずつ個性が変化します。
ワインでいう「ヴィンテージ(収穫年)」のように、その年ならではの特徴を記録する役割も酒造年度にはあるのです。
また、酒蔵では品質管理や在庫管理、熟成期間の確認など、多くの場面でBYが活用されています。
つまり、酒造年度は単なる「年度」ではなく、日本酒の履歴書のような存在と言えるでしょう。
第一酒造でも大切にしている「その年らしさ」
私たち第一酒造でも、酒造年度は大切な管理基準の一つです。
たとえ同じ銘柄であっても、
- 酒米の出来
- 天候
- 発酵の進み方
- 熟成の具合
によって味わいは毎年少しずつ異なります。
その違いを楽しめることも、日本酒ならではの魅力です。
特に自家栽培米を使用したお酒では、その年の気候や稲の生育状況が酒質にも表れます。
まさに「その年だけの一本」が生まれるのです。
時代が変わっても、日本酒造りの本質は変わらない
設備が進化し、一年中醸造できる酒蔵が増えた現在でも、日本酒造りの本質は昔と変わっていません。
お米を育て、水を選び、麹を育て、発酵を見守る。
一本のお酒が完成するまでには、多くの人の技術と経験、そして自然の力が込められています。
酒造年度(BY)は、そんな一年の積み重ねを記録する大切な指標です。
四季醸造という新しい技術と、長年受け継がれてきた伝統。
その両方があるからこそ、日本酒はこれからも進化し続けていくのでしょう。
日本酒を手に取った際には、ぜひラベルや蔵元の情報にも注目してみてください。
「このお酒は、どんな一年を経て生まれたのだろう。」
そんな視点で味わう一杯は、きっとこれまで以上に奥深く感じられるはずです。