日本酒の搾り方を学ぶための基礎知識

栃木の地酒蔵元がこっそり教える!明日から使える簡単マメ知識

皆様こんにちは! 日本名水百選の水が湧き出る栃木県佐野市で、延宝元年(1673 年)創業、 350 年以上の歴史を誇る栃木県内最古の蔵元、第一酒造の蔵人でございます。
私たちは、名水と自社栽培の酒米を用いて、やわらかな旨味と上品な香りの銘酒「開華」を醸しております。

酒屋さんや蔵の売店で、「しずく取り」とか「遠心分離」といった言葉を見かけたことはありませんか?これって何?と思いますよね。これらは、お酒を搾る方法の名前です。今回は、その「しずく取り」や「遠心分離」のことについてお話いたします。

初めに「搾り」とは、*醪(もろみ)を液体(お酒)と酒粕に分離する工程のことです。専門用語で言うと「上槽」と言い、酒税法上では「こす」と言います。この「上槽」は、道具や工程の違いで大まかに4種類に分けることができます。

*醪とは、発酵中の液体のことを指します。酒母(しゅぼ)・麹(こうじ)・蒸米(むしまい)・仕込み水をいれて造る、いわば「日本酒になる前段階」というものです。

お酒の搾り方法

連続上槽式

最もポピュラーな方法で、大半の酒蔵がこの方法でお酒を搾っています。

通称「ヤブタ」と呼ばれます。「ヤブタ」は、連続上槽機のメーカー名で、多くの酒蔵で採用されていることから、連続上槽式の代名詞のようになっています。

この連続上槽式は、自動圧搾機と言われる巨大なアコーディオン状の機械を使ってお酒を搾る方法です。

アコーディオンのヒダヒダ部分の中は板(濾過板と圧搾板)があり、板の間に醪を流し込みます。圧搾板に空気を入れて膨らませ、その圧力で搾ります。

搾った後、濾過板に貼りついて残った板状の固形物が酒粕(板粕)になります。板粕は、粕を剥がした後に切り分け、袋詰めして商品化したものです。弊社の売店やスーパーなどでよく見かける酒粕ですね。

連続上槽式で搾るメリットは、

1)空気にほとんど触れずに搾れる

2)効率的に上槽作業ができる

3)出てくるお酒の品質にムラがない

の3つが挙げられます。

②槽(ふね)搾り

伝統的な搾り方法になります。醪を酒袋と言われる布製の袋に詰め、酒槽(さかふね)と呼ばれる大きな木製もしくは金属製の浴槽のような箱の中に並べて重ねます。

重ねた後は、最初は重力に任せてゆっくりとお酒が染み出してきます。その後重しを降ろして圧力を掛けて更にお酒を搾り出します。

槽搾りの特徴は、

1)手作業で行うため、時間と労力を要する

2)まろやかで繊細な味わいのお酒を得られる

3)搾るタイミングで、「あらばしり」・「中取り」・「責め取り」と取り分けやすい

と挙げられます。

特に3)については、それぞれ取れたお酒の香味に個性があり、同じ醪からでも異なる表情のお酒を楽しめます。

詳細は、当コラムの『「あらばしり」って何?』を参照ください。

③袋吊り

主に鑑評会に出品するお酒を搾る方法として使われます。

通称「雫取り」とも呼ばれます。

小さなタンクに棒を2・3本渡し、1本に数個ずつ醪を入れた酒袋を吊るします。醪の自重で自然落下したお酒の雫を集めます。

最初に滴り落ちるお酒は、やや濁りが見られ、いわゆる「薄濁り」・「おりがらみ」のような状態です。

このお酒は再び醪タンクに戻し、固形物(おり)が見られなくなったら斗瓶と言われる18Lの瓶に取り分けられます。

このお酒は一般的には「斗瓶取り」と呼ばれるものになります。

袋吊りの特徴は、

1)非常に香り高いお酒が得られる

2)圧力を掛けないので、雑味が少ない

3)しかし時間と手間が掛かる

が挙げられます。

蔵によっては、大吟醸以外の商品でも品質のためにわざわざ袋吊りで搾って詰めているところもあります。

ちなみに弊社の商品では、「開華 大吟醸 斗瓶取りしずく酒」がこれに該当します。

④遠心分離

日本酒の上槽方法で最も新しいのが「遠心分離」です。この方法が生まれてまだ20年そこそこしか経っていません。本当に新しい技術なんです。

この「遠心分離」、日本全国の酒蔵で導入しているのが弊社を含めてまだ十数社しかないのです!

ちなみに2020年のデータでは、日本には約1500余の酒蔵が存在しています(国税庁・令和5酒造年度分清酒の製造状況について)。

その中の十数社なので、割合としては1%そこそこですね。非常にレアな方法です。

今まで述べた方法との最も大きな違いが、布を通さずにお酒を搾っていることです。

仕組みとしては、金属製のバスケットに醪を注入し、高速回転させます。遠心力によって重い粕がバスケットの側面に張り付き、液体(お酒)が取れます。

布を通していないので、お酒本来の良い香りや味をキープして搾ることができます。

そして、実際飲んでみてわかると思いますが、喉に引っかかる感じが全くありません。実にスムーズな酒質になります。

ただ、非常に効率が悪く、同じ量の醪から取れるお酒の量が連続上槽式の約7割程度となり、歩留まりが悪いという点があります。

言い換えると、非常に付加価値の高いお酒になりますね。

弊社では、

純米吟醸 遠心分離 生原酒(冬季限定) 

純米吟醸 遠心分離 にごり酒(シルキーホワイト 冬季限定)

純米吟醸 遠心分離 生酒(夏季限定)

純米吟醸 遠心分離 ひやおろし(秋限定)の季節商品がございます。

遠心分離ならではの滑らかな味わいを是非皆様の舌で感じていただければと思います!

いかがでしたでしょうか。「日本酒」とひと口に言っても、搾り方でかなり違いがあることがわかりますね。

今後お酒を選ぶ際の参考にしていただければ幸いです!

飯米と酒米(酒造好適米) 

ー 飯米ではお酒を造らないの? ー

栃木の地酒蔵元がこっそり教える!明日から使える簡単マメ知識

皆様こんにちは! 日本名水百選の水が湧き出る栃木県佐野市で、延宝元年(1673 年)創業、 350 年以上の歴史を誇る栃木県内最古の蔵元、第一酒造の蔵人でございます。
私たちは、名水と自社栽培の酒米を用いて、やわらかな旨味と上品な香りの銘酒「開華」を醸しております。

酒造好適米とは?

日本酒の味わいを決める要素は、酵母や仕込み水、麹造り、発酵の管理と多岐に亘っています。そのどれもが欠かせませんが、それらの根幹にあるのは、やはり「米」です。どの米を使い、どのように向き合うか。その選択には、蔵の考え方と土地へのまなざしが映し出されています。

日本酒に用いられる米は、大きく分けて「酒造好適米(酒米)」と「飯米(一般米)」の二つに分類されます。酒造好適米は、その名の通り酒造りに適した性質を備えた米であり、一方の飯米は、私たちの食卓に並ぶ、ごく身近な存在です。どちらも日本酒を造り出す原料であることに変わりませんが、その個性は大きく異なります。

酒造好適米の最大の特徴は、粒の中心に現れる「心白」と呼ばれる白く不透明な部分です。心白はデンプンの結晶が緩く結合しているため、白濁して見えます。この心白があることで、麹菌の菌糸が内部まで伸びやすくなります。これにより、麹造りが安定し、発酵中の糖化がスムーズに進みます。

しかし、心白も大きければ良いというものではなく、大きすぎると精米したときに米が砕けやすくなってしまいます。なので、心白が大きい品種は大吟醸の造りにはあまり使われません。

次に、酒造好適米は粒が大きく、タンパク質や脂質が少ない傾向にあります。タンパク質は分解されるとアミノ酸となり、旨味にもつながる一方、過剰になると雑味の原因にもなります。逆に飯米は食べたときの旨味やツヤが大事になりますので、タンパク質や脂質が多く含まれます。

そのため、タンパク質などが少ない品種が日本酒造りに向いており、酒造好適米として栽培が進められているのです。

ただし、その栽培は決して容易ではありません。背丈が高く倒れやすい品種も多く、天候や土壌の影響を受けやすいです。酒造好適米は、農家の高度な技術と長年の経験に支えられて育てられている米なのです。

次の項では、代表的な酒造好適米の品種について紹介させていただきます。

酒造好適米にも飯米と同じく様々な品種があり、現在約100種類ほどの品種が登録されています。それぞれの品種は、地域ごとの気候や土地の特徴に合わせて栽培・改良がなされています。

酒米の王様・山田錦

酒造好適米の代表格として知られるのが山田錦です。粒が大きく、心白の発現率が高く、麹菌が均一に入りやすいので高品質の麹を造りやすいです。そして何より、高精白に向いているので、大吟醸酒などに用いられることが多いのが特徴です。その扱いやすさと酒質の完成度の高さから、長らく「酒米の王様」と呼ばれています。

山田錦で仕込んだ酒は、奥行きのある芳醇な味わいを持つのが特徴です。鑑評会用の大吟醸酒をはじめ、蔵の看板酒に使われることも多く、日本酒の一つの理想形を体現する米と言えます。

弊社の商品では、「開華 大吟醸 金賞受賞酒」や「開華 純米大吟醸 山田錦」で使用されています。

軽快さが魅力の五百万石

五百万石は、新潟を中心に全国で広く栽培されてきた酒造好適米です。寒冷地向けに開発された品種で、大粒で心白が大きいため50%以上の高精白が難しい品種です。

また、蒸した際に粘らないので、蒸米の理想である「外硬内軟」に仕上がりやすく、麹を造りやすいという特徴があります。

加えて、米が硬く醪が溶けにくいため、いわゆる「淡麗辛口」と言われる酒になりやすいです。香りは控えめで、爽やかな飲み口の酒質になります。

弊社商品では、「特別純米原酒みがき」や「純米酒」等の麹として使われているほか、季節商品の「開華 純米吟醸 無濾過生原酒 しぼりたて」や「遠心分離 生原酒」では全量使用しております。

寒冷地の酒造りを支える美山錦

美山錦は、長野県で誕生した品種で、「たかね錦」という品種の突然変異種になります。寒冷地や山間部での栽培に適しているため、長野県や東北地方で主に栽培されています。

滑らかでさっぱりとした、綺麗な酒質のお酒になるのが特徴です。

弊社商品では、定番の「開華 純米吟醸」や季節商品の「開華 大寒仕込み」に使われています。

唯一無二の存在・雄町

雄町は、酒造好適米の中で100年以上に亘って途切れずに栽培され続けている唯一の品種になります。「山田錦」や「五百万石」等粒が大きく、心白も大きいが、米質が柔らかく溶けやすいため、扱いには高い技術を要します。

しかし、その難しさを乗り越えた先に現れる酒質は、他の米にはない個性を持ちます。ふくよかで奥行きのある旨味、複雑さと力強さを併せ持つ、どこか野性味を感じさせる味わいのお酒になります。この「雄町」で造られたお酒をこよなく愛する人たちを「オマチスト」と呼んだりもします。

栃木の酒造りを支える「ひとごこち」

ひとごこちは、美山錦以上の心白の発現や耐冷性を目的に長野県で育成された品種です。美山錦より心白の発現が安定しており、また大粒で扱いやすさと酒質のバランスに優れるのが特徴です。

栃木県でも栽培しており、弊社も自家水田でこの品種を栽培しています。

ひとごこちで仕込んだ酒は、淡麗で味に幅があることが特徴です。主張しすぎず、食事に自然と寄り添うお酒。栃木の水や気候との相性も良く、地域に根ざした酒造りを支える存在となっています。

弊社商品では、季節限定酒の「KAIKA80」や「開華スパークリング」で使用されています。

栃木県オリジナル酒米「夢ささら」

栃木の酒造りを語るうえで欠かせないのが、県独自で開発された酒造好適米「夢ささら」です。高精白が可能な酒造好適米の開発を目的に、T酒25を父に、山田錦を母として交配し、2005年から13年の年月をかけて育成した品種です。

夢ささらは、心白が比較的小さく、溶けすぎない性質を持ちます。そのため、発酵は穏やかに進み、軽やかでバランスの取れた酒質になりやすいです。香りは穏やかで、口当たりはやさしく、後味にはきれいな酸が感じられる傾向にあります。

華やかさを前面に出すというよりも、日々の食卓に自然と寄り添う酒。その姿は、栃木の風土や人柄を映し出しているようでもあります。夢ささらは、栃木の酒の「今」と「これから」を支える、大切な酒米です。

弊社商品では、「開華 純米大吟醸 夢ささら」や「開華 純米吟醸 夢ささら」、「開華 AWA SAKE」と主力商品に使用されています。

飯米で仕込むという酒造り

日本酒は、酒造好適米だけで造られるものではありません。飯米(一般米)を使って仕込まれる酒も古くから存在しています。飯米はタンパク質や脂質を多く含むため、雑味が出やすいとされてきたが、精米技術や醸造技術の進化により、その特性を生かした酒造りができるようになりました。蔵(杜氏)によっては、蔵の「個性」の表現として敢えて全量飯米で仕込むところもあるようです。

なお、飯米の品種によっては、優れた酒造適性を示すものもあり、食用よりも酒造用として使われることが多くなったものもあります(例:亀の尾)。

ちなみに弊社では、「あさひの夢」や「とちぎの星」、その他加工米を比較的安価な価格帯の商品に使用しています。

米を知ることが、酒を深くする

酒造好適米と飯米。どちらが優れているかではなく、どの米を使い、どんな酒を目指すのか…その選択にこそ、蔵の個性が表れます。米を知り、米と向き合うことは、酒造りそのものを見つめ直すことでもあります。

次に日本酒を手に取るとき、ぜひ原料米にも注目していただけたらと思います。そこには、米を育てる人の思い、酒を醸す人の技、そして栃木の土地の物語が詰まっています。米作りを行う農家さんに思いを馳せながら、一献傾けてみてください。